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五島暮らし

​上五島の四季をお届けするコラム

「獲れなくなったら山に上がれ」伝説の漁師・濵上洋一さん

  • yamaguchi5865
  • 6 日前
  • 読了時間: 3分

更新日:19 分前

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今日は、僕が海を大好きになるきっかけをくれた人について語ってもいいですか。僕が生まれ育った魚目集落で知らない人はいない、伝説の漁師・濵上洋一(はまがみ よういち)さん。名前からして、海の男でしょう?

 

僕が30歳をすぎて夢中になったのが、クエ漁です。クエは「神様の魚」とも言われ、滅多に獲れません。顔も体の模様もかっこいいし、漁師を魅了する魚です。そのクエを獲る名人が、洋一さん。

 

元はと言えば、父が尊敬していた人で、僕は幼い頃から父にひっついて洋一さんの漁を間近で見せてもらいました。船の名は「千勝丸」。奥さんが操縦し、洋一さんが潜るスタイルは夫婦船と呼ばれました。

 

何がすごいって、洋一さんは3分も素潜りできるんです。ただ潜るだけじゃない、そこで魚や貝を獲る。僕も潜水に自信があって1分~2分なら余裕で潜れますが、あんな深い場所まで辿りついて漁をするなんて到底できません。

 

現代のようにハイスペックな道具がない時代に、洋一さんは水中眼鏡と硬いゴムのフィンだけで20mの深さまでゆっくり潜って、珊瑚や岩場に潜む魚が出てくるのをじっと待つんです。海深5mのあたりから浮力がかからなくなり、人の体は自然と沈んでいきますが、水圧で肺が圧迫されていきます。肺の中の酸素を効率よく使うために、大きな筋肉は動かさない。洋一さんは心肺能力と筋肉の使い方が、常人離れしていました。怖くないわけがないんです、でもいつだって何食わぬ顔で大量のアワビやクエを獲って船に戻ってきました。

 

ある日、洋一さんは言いました。

 

「慎太郎、獲れなくなったら山に上がれ」。

 

漁師にとって魚が多く獲れる漁場はトップシークレットです。GPS付き魚群探知機なんてない時代、漁師たちは自分だけが知る漁場を「山立て」という方法で記憶しました。目印となる山の形や木、鉄塔などの目印と船との位置関係を覚えておけばいつでも漁場が割り出せる、漁師の間に昔から伝わる知恵です。

 

洋一さんは山立てを使うだけでなく、番岳(有川湾を見下ろす山)から海を眺めるだけで魚が多くいる場所を見つけることができました。波のざわつきや潮のぶつかりを読み、岩礁帯のわずかな黒い影を見逃さない。驚異的な目を持っていることに、僕は心から憧れました。



そんな洋一さんも7人の子供を育て上げ、10年ほど前に海から上がりました。勇退を決めた後姿に僕は「お疲れ様です」と言うしかなかった。そして後日、率直にお願いに行ったんです。洋一さんが知っている漁場を教えてください、と。慣れ親しんだ海にまだ知らない瀬がある、そこに仕掛けてみたいという思いをまっすぐにぶつけました。

 

洋一さんは教えてくれました。長らく漁をして大切に守ってきた宝を僕に譲ってくれたんです。しかも、愛用の銛まで僕に託して。道具は漁師の魂です。

 

「石鯛の血に染まったこの銛(モリ)をお前にやるけん」。

 

 

8月になるとクエは産卵のために岸に寄り、9月中旬には海は秋模様にガラリと変わるので、僕はソワソワします。誰にも知られてはならない宝の漁場へ行きたくて。

 

僕が一生かかっても、洋一さんの目を持つことはかないません。たまに洋一さんの孫と海に行くと、祖父譲りの目を持っていることに嫉妬します。

 

でも、僕には洋一さんから教わった知恵と心がある。潮が満ちて、魚が元気よく泳ぐ時に海水を汲むと栄養たっぷりの塩ができること。目の前に広がる海で仕事ができる喜び。

 

海から上がっても僕の胸に輝き続ける洋一さんが、「五島暮らし」を読んでハハハと笑ってくれたら本望です。


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