冬になると夜の海がキラキラと輝くのが楽しみです。子どもの頃は水平線を埋め尽くしていた、ヤリイカを釣る船の漁火。イカは夜行性なので夜に出漁し、船に灯した照明でおびき寄せます。「抱いた、抱いた!」あちこちで声が上がるのは、スッテ(疑似餌の釣具)にイカが抱きついた合図で、すかさず1本、また1本と釣り上げていきます。今は漁師が減って漁に出るのは10隻ほどですが、沖に漁火が灯るとワクワクします。
虎屋のすぐ前に広がる有川湾は狭いけれど、とても面白い季節の移ろいが見られます。秋のトビウオをシイラが追いかけ、シイラが去るとイカやカツオがやってきて、その後イカやカツオを追うマグロと、冬になるにつれて海にやってくる魚がどんどん大きくなっていくのです。島外ではあまり知られていませんが、有川湾では昔からよくマグロが獲れます。有川湾に面する地区の西側が「魚目(うおのめ)」、東側が「有川」という名で呼ばれるのも、「鮪(マグロ)」という漢字を二つに分けて「魚」と「有」の字をとったからだと聞きました。それほどに、私たちの暮らしはマグロの豊かな恩恵に支えられてきたのです。
いま、虎屋では新しいレストランをつくろうと仕上げ作業に日々励んでいます。そのレストランから、たまに魚の群れや大きな魚のジャンプが見えることがあります。先日も、すぐ近くではねるマグロを見ました。おそらく100kgはあるでしょうか。五島は夏のリゾート地として人気ですが、おいしい魚を食べるなら冬。漁火のイルミネーションを楽しみながら、有川湾ならではの冬を味わってください。運がよければ、昼にマグロの姿を見られるかもしれませんよ。(慎)
写真提供:福井康弘